一般社団法人士業適正広告推進協議会(士推協)

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借金問題と弁護士等の広告

2021年9月24日

弁護士 深澤 諭史

1.士業に依頼することのメリットと限界

弁護士や認定司法書士に依頼した場合、自分自身で処理をするよりは、良い結果が得られることが多い。

例えば、貸金を回収したいというのであれば、弁護士であれば、素早く訴訟を提起して判決を得、財産を弁護士会照会や財産開示手続きにより探知し、その上で、差し押さえにより、権利を実現することができる。

もっとも、残念ながら、士業に依頼をすれば、必ずしもより良い結果が得られることが保証されるというわけでもない。もとより、士業の倫理として、よりよい結果を保証することは禁じられている。

たとえば、行政書士の業務でいえば、到底、許認可の要件を満たさない事案において、依頼をしたからといって許認可が得られるとか、あるいは、税理士に依頼をすれば、(合法的な節税テクニックは別として)本来支払わなければならない税金を免れることができるというわけにはいかない。

同じく、司法書士に依頼をしたからといって、(いわゆる地面師による被害は別として)他人の土地を登記できるという訳でもない。

弁護士や認定司法書士においても、冒頭の貸金回収の事案でいえば、そもそも、借主が返済のために十分な財産を持っていないのであれば、依頼をしたからといって、回収が可能になるわけではない。専門家であっても、無いところからはとれない、ということには、なんら変わりはないのである。

このように、士業は高度の専門性を持つとしても、不可能を可能にするとか、超法規的な手段がとれるわけではなく、依頼をしたとしても、良い結果が得られないことはありうる。

2.借金問題の特殊性とメリット

ところが、借金問題については、少々事情が異なる。もちろん、これも確実に良い結果が生じるということではないが、借金問題については、弁護士や認定司法書士に依頼することで、かなりの確率で改善、よりよい結果が得られることを見込むことができる。

これは、法制度が影響している。弁護士や認定司法書士は、法律事件について代理をして交渉を行う事ができる。そして、貸金業者は、法律上、弁護士等が介入した場合には、直接債務者に連絡を取ることは禁じられる。

請求されるという立場は、非常に大変なものである。したがって、取り立てから解放されるというだけで、依頼者である債務者のメリットは大きく、「平穏な日常を取り戻す」という「よりよい結果」は、速やかに達成されることになる。

また、これは交渉次第であるが、通常、貸金業者は、利息についての免除や、分割による返済に応じるケースが多い。そうすると、返すべき金額の減額、つまりは「借金減額」がかなりの確率で実現できるということになる。

そういった交渉が成立しない場合は、破産により、借金を全額免除してもらう、ということも可能である。

かように借金問題は、他の紛争と異なり、士業に依頼することで、相当高い可能性で、改善を期待することができる。支払う費用も、借金の減額分を下回ることが通常である。したがって、依頼者は、借金が減額ないし免除され、その結果、毎月の支払い額が少なくなるというメリットを、高い確率で享受できることになる。

3.借金問題を士業に依頼しないことによる損失

要するに、借金問題において、返済に窮する状態であれば、これは弁護士等に依頼しないことは「損」であるといえる。明らかに返済に収入が足りないのに、漫然と返済を続けて利息を払い続けるのは、債務者にとって基本的に損しかない。

このように借金問題は、弁護士等への依頼で、改善できる可能性が高く、しかも、依頼は早ければ早いほどよい、依頼しない状態は「損」であるし、その分、経済的再建が遅れる、という関係にある。

そこで、市⺠の立場からみれば、一秒でも弁護士等に依頼することが利益であるといえ、それを促す弁護士広告は、市⺠の利益の観点からは、ほぼメリットしかない、といえる。

法律相談の結果、良い結果が見込めないので、受任しない、という選択肢が、弁護士等にはある。しかし、借金問題については、以上のようなかなりの可能性で改善でき、対応が遅れることが損失につながるという事情がある。そのため、借金問題の相談については、受任せずに帰らせてしまうのは、基本的に不適切である、という意見すらある位である。

4. 借金問題の広告の後見的・公益的役割

さて、最近、借金問題について、借金が減額出来る、問題が解決できるという弁護士等の広告が多く見られる。

広告において、どの程度、良い結果を期待させるか、その期待が過度のものではないか、いろいろと議論のあるところではある。

しかし借金問題については、既に述べたとおり、ひとまず弁護士等に依頼をすれば、かなり高い確率で改善する、依頼が遅れることにより純粋に損をしてしまう、という特殊な事情がある。

特に、借金問題を抱えている者の中には、利息込みで返済を続ける以外に、解決方法がないと誤解している者や、自力で専門家にたどり着けない者、破産以外に方法がないと誤解している者も少なくない。

そうすると、一種の後見的、公益的な発想をし、ある程度、借金の減額について、過度ではないにしても、はっきりとした期待を持たせる広告も、一考の価値があるのではなかろうか。

もちろん、安易に過度の期待を抱かせることが適切ではないことはいうまでもない。

しかし、借金問題については、上記のような改善可能性が高いという特別の事情があるし、そもそも、市⺠が、解決の可能性について気がついていない可能性も少なくない。

借金問題の広告について、過度に消極的な姿勢をとることは、本来、早くに解決できた市⺠を、借金問題で⻑く苦しませる結果になってしまわないだろうか。士業広告は、専門家の倫理の観点から、慎重で消極的であればあるほどよい、という考え方は、特に市⺠の法律問題については、必ずしも妥当せず、発想の転換が求められていると考える次第である。